本記事は「Disease Module入門」シリーズの第3回(実践編)です。
| 回 | タイトル | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第1回 | 疾患をネットワークの局所的な破綻として読む | 疾患モジュールの概念・3種のモジュールの違い・数理定義・疾患間関係 |
| 第2回 | シード・ネットワーク・検出法と統計的検証 | 解析パイプライン、シード設計、ネットワーク選択、5つの検出法、有意性検定 |
| 第3回(本記事) | 創薬応用とIBDで実際に計算する | ドラッグリポジショニング、シングルセル、IBDケーススタディ(実データ解析) |
第1回で概念を、第2回で作り方と検証を見た。最終回では、疾患モジュールを創薬にどう活かすかを整理し、最後に炎症性腸疾患(IBD)を題材に、実データで疾患モジュールを計算してみる。
- 疾患モジュールを標的探索・リポジショニング・併用療法・安全性評価に使う発想がわかる
- 薬剤標的とモジュールのネットワーク近接性からリポジショニング候補を絞れる
- シングルセル・空間データで疾患モジュールを細胞種・組織に対応づける意義がわかる
- IBDの実データ解析で、モジュールの有意性・薬剤近接性・機能エンリッチメントの結果を読める
- ネットワーク近接性の限界(作用方向・研究バイアス)を自分のデータで判断できる
創薬の文脈でどう活かせるのか
疾患モジュールが創薬で重要なのは、薬剤探索を「単一標的を当てる問題」から「疾患ネットワークを望ましい状態へ動かす問題」へ拡張できる点にある。従来型の創薬では、疾患に関係する一つの標的を見つけ、それを阻害または活性化する化合物を探索する。しかし複雑疾患では、疾患表現型は一つの標的だけで決まらないことが多い。疾患モジュールを使えば、標的候補を単独で評価するのではなく、その標的が疾患関連ネットワークのどこに位置し、どの経路を介して病態に影響し、他の標的や副作用モジュールとどう関係するかを評価できる。
四つの使いどころ
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標的探索 … 疾患モジュールの内部または境界に位置し、疾患シードと統計的に近く、かつ薬剤で制御可能なタンパク質は標的候補になりやすい。ただし中心性が高いだけのハブは、多数の生理機能に関与して毒性リスクが高いことがある。
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ドラッグリポジショニング … 薬剤Xの標的集合 と疾患Dのモジュール のネットワーク距離を測る。z-score が負に大きい薬剤は、標的が疾患モジュールに近い。
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作用機序の解釈 … 薬剤標的を疾患モジュール上に重ねると、炎症・線維化・細胞周期・ミトコンドリア機能・シナプス機能など、どの病態サブモジュールに近いかが見える。
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併用療法の設計 … 二剤が同じサブモジュールに集中するなら冗長、別々のサブモジュール(炎症と代謝など)に作用するなら相補的な併用候補になりうる。
▲ 図1. 薬剤標的が疾患モジュールに近いほど、病態修飾候補として優先順位は上がる。ただし、作用方向、発現細胞種、組織到達性、安全性を重ねて判断する必要がある。
これらをまとめると、疾患モジュールは創薬の各段階で次のように使える。
| 創薬段階 | Disease Module の使い方 | 得られるもの |
|---|---|---|
| 標的探索 | 疾患モジュール内・近傍の薬剤介入可能なノードを優先する | 新規標的候補、標的の病態上の位置づけ |
| 標的妥当性評価 | 標的が疾患シード、疾患細胞種、患者オミクスと整合するかを見る | 標的妥当性の補強 |
| ドラッグリポジショニング | 既存薬標的と疾患モジュールの近接性を測る | 再利用候補薬のランキング |
| 作用機序解析 | 薬剤標的がどのサブモジュールに近いかを見る | 作用機序仮説、薬効バイオマーカー |
| 併用療法 | 複数薬剤が相補的なサブモジュールを覆うか評価する | 併用候補、冗長併用の除外 |
| 安全性評価 | 薬剤標的と副作用・正常機能モジュールの近さを見る | 毒性リスク、選択性の評価 |
| 患者層別化 | 患者ごとにモジュール活性を計算する | 応答患者候補、適応拡大候補 |
標的探索は三軸で見る
標的探索で疾患モジュールを使うときは、3つの軸を同時に見るとよい。
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病態近接性 … 候補標的が疾患モジュールの内部または近傍にあり、ランダム期待より疾患シードに近いか。
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制御可能性 … その標的に既存の化合物、抗体、PROTAC、RNA therapeutics などの介入手段があるか(druggability)。
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選択性 … 候補標的が正常組織の必須機能に深く関わりすぎていないか、毒性関連経路や副作用モジュールに近すぎないか。
リポジショニングは「方向」を合わせる
ドラッグリポジショニングでは、距離だけで候補を決めず、疾患での変化方向と薬剤作用方向を合わせる必要がある。疾患で過剰活性化している経路に阻害薬が近いなら病態を戻す方向の仮説になるが、疾患で低下している経路に阻害薬を当てれば、距離が近くても悪化方向かもしれない。そのため疾患モジュール解析は、発現シグネチャ、摂動シグネチャ、LINCS/CMap のような薬剤応答データ、CRISPR/RNAi スクリーニング、薬剤感受性データと組み合わせると強くなる。
実務的には、候補薬剤を多段階で絞り込む。疾患シードをネットワークに投影してモジュールを定義 → DrugBank・ChEMBL・Open Targets・Pharos などから薬剤標的を集めて近接性を計算 → 標的が疾患関連細胞種で発現しているか、オミクスの変化方向を打ち消すか、既知適応症・副作用が矛盾しないかを評価 → 上位候補を細胞モデル・オルガノイド・動物モデル・患者由来データで検証。疾患モジュールは候補を増やすためだけでなく、候補を減らすためにも役立つ。
安全性と患者層別化
副作用予測にも応用できる。薬剤標的が目的疾患モジュールに近いだけでなく、心毒性・肝毒性・免疫抑制・神経毒性などの副作用関連モジュールにも近い場合、治療域が狭くなる可能性がある。逆に、疾患モジュールには近いが正常組織の必須モジュールからは離れている標的は、選択性の点で有利かもしれない。
患者層別化でも使いやすい。全患者が同じ疾患モジュールを同じ程度に乱しているとは限らない。患者ごとの発現・プロテオームデータからモジュール活性スコアを計算すれば、炎症優位・代謝異常優位・線維化優位・細胞周期優位といったサブタイプを定義できる可能性がある。
疾患別の勘所
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がん … ドライバー変異と薬剤応答をつなぐ層として使える。変異遺伝子が直接 druggable でなくても、その下流や周辺に薬剤標的があることがある。CRISPR依存性スクリーニングの必須遺伝子をモジュールに重ねれば、合成致死標的や耐性克服標的の探索にもつながる。
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免疫・炎症疾患 … モジュールを細胞種別に分けることが重要。同じ炎症性疾患でも、T細胞・B細胞・マクロファージ・線維芽細胞・上皮細胞のどこに活性があるかで狙う薬剤が変わる。
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神経疾患 … 近接性だけでは足りず、血液脳関門通過性、神経・グリア細胞での発現、病期、長期投与の安全性が効く。シナプス・ミトコンドリア・タンパク質凝集・神経炎症・血管機能などのサブモジュールに分けて整理する。
ネットワーク近接性は薬効を保証しない。薬剤が標的を阻害するのか活性化するのか、疾患でその経路が過剰なのか低下しているのか、病変組織に十分な濃度で到達するのか、標的占有率・薬物動態・補償経路はどうか——こうした薬理学的条件は近接性スコアには含まれない。
疾患モジュールは候補を順位づけ、作用機序を説明し、検証実験を設計するための道具であって、臨床効果を単独で予測する魔法のスコアではない。最も実践的な使い方は、疾患モジュールを「意思決定のフィルタ」として置くことである。疾患近接性・作用方向・細胞種文脈・druggability・安全性・既存エビデンスの複数軸で評価し、実験に進める候補を絞る。疾患モジュールは、候補を見つける地図であると同時に、候補を捨てるための地図でもある。
シングルセル時代の Disease Module
従来の疾患モジュール解析は、汎用的なヒトPPIネットワークに疾患遺伝子を載せることが多かった。しかし、疾患は細胞種と状態に強く依存する。アルツハイマー病ならニューロン・アストロサイト・ミクログリア・血管細胞が関与し、炎症性疾患なら免疫細胞サブセットや上皮細胞の状態が重要になる。がんでは腫瘍細胞だけでなく、線維芽細胞・免疫細胞・内皮細胞・低酸素環境・治療圧が病態を変える。
シングルセルRNA-seq や空間トランスクリプトミクスを使うと、疾患シードがどの細胞種で発現しているか、モジュール内遺伝子がどの細胞状態で活性化しているかを評価できる。汎用PPI上で得たモジュールを細胞種発現でフィルタするだけでも、病態解釈はかなり変わる。さらに、細胞種ごとの共発現ネットワークや遺伝子制御ネットワークを作れば、より文脈依存的な疾患モジュールが得られる。
空間データでは、モジュールの活性が組織内のどこに現れるかも見られる。たとえば腫瘍境界・炎症部位・線維化領域・神経変性が進む領域でモジュールスコアを計算できる。これにより、疾患モジュールは単なる分子ネットワーク上の領域から、細胞・組織空間に対応する病態単位へ拡張される。
実際に計算してみる:IBD モジュール
ここまでの手順を、公開データで一度通してみる。題材は炎症性腸疾患(IBD)とする。使ったデータと方法は本節末に示す。
設定
ネットワークは STRING v12.0 のヒト物理相互作用サブネットワークを用い、信頼度スコア 700 以上のエッジだけを残した(最大連結成分で 9,830 遺伝子、85,576 エッジ)。第2回で述べたエッジ意味の問題を避けるため、共発現や文献共起を含む統合スコアではなく、物理相互作用に限定している。シードは Open Targets の IBD(EFO_0003767)関連遺伝子のうち関連スコア 0.5 以上の 87 遺伝子とし、うち 69 遺伝子がこのネットワークに載った。上位には NOD2、IL10/IL10RA/IL10RB、IL23R、IL12B、JAK2、ITGA4 など、IBD で確立した遺伝子が並ぶ。
結果1:モジュールは有意に凝集している
69 個のシードのうち 34 個が単一の連結成分にまとまった。次数分布を保ったランダム遺伝子集合では、同じサイズでも平均 2.9 個(標準偏差 1.0)しかつながらない。観測値はランダム期待から z = 32.7(経験的 p < 0.001、1,000 回のランダム化)も離れており、最近接シードまでの平均距離 は 1.48 と短い。つまり IBD 関連遺伝子は、インタラクトーム上で偶然では説明できないほど狭い領域に固まっている。これが「疾患モジュールが存在する」ことの最小限の証拠である。
▲ 図2. IBD シード遺伝子が作る最大連結成分のサイズ(赤線, S = 34)は、次数を合わせたランダム集合の分布(青)から大きく外れる。疾患関連遺伝子がネットワーク上で局所的に凝集していることを示す。
結果2:薬剤の近さで治療薬と無関係薬が分かれる
次に、薬剤標的集合と IBD モジュールのネットワーク近接性を Guney らの closest measure で測った。IBD で承認・使用される 10 剤と、無関係な対照薬 5 剤について、各薬剤の標的から最も近いシードまでの平均距離を、次数を合わせたランダム標的集合と比較して z-score にした。結果は明快で、IBD 治療薬はすべて z = −2.8 〜 −5.8、対照薬は z ≈ 0 〜 +1.3 と、両群が完全に分離した。
z-score の読み方を確認しておく。z はランダム標的集合の分布における標準偏差の単位であり、おおまかに正規分布を仮定すれば で片側およそ上位 5%、 で上位 1% に相当する「ランダムより近い」を意味する。つまり IBD 治療薬の z = −2.8 〜 −5.8 は、ランダムな同サイズ標的集合ならまず起こらない近さであり、対照薬の z ≈ 0 はランダムと区別できないということだ。
▲ 図3. 薬剤標的と IBD モジュールの近接性 z-score。IBD 治療薬(赤)はすべて負に大きく、対照薬(灰)は 0 付近に分布する。負に大きいほど、標的がモジュールに近い。
| 薬剤 | 主な標的 | z-score |
|---|---|---|
| トファシチニブ(JAK阻害) | JAK1/2/3 | −5.8 |
| ベドリズマブ(抗α4β7) | ITGA4/ITGB7 | −4.7 |
| オザニモド(S1P調節) | S1PR1/5 | −4.1 |
| インフリキシマブ(抗TNF) | TNF | −3.2 |
| ウステキヌマブ(抗IL-12/23) | IL12B | −2.8 |
| アトルバスタチン(対照) | HMGCR | +1.3 |
| ドネペジル(対照) | ACHE | −0.1 |
結果2には落とし穴がある。強い近接性が出た主因の一つは、IBD 治療薬の標的(TNF、JAK1、IL12B など)がそもそもシード遺伝子に含まれていることである。標的がシードと一致すれば距離は 0 になる。これは「IBD 薬は IBD 遺伝子に対して作られた」という当然の帰結であり、純粋なネットワーク上の近さというより標的の一致を見ている面が大きい。第2回で述べた研究バイアスそのものだ。
結果3:標的がシードでない薬での再スクリーニング
そこで、標的を1つもシードに含まない既存薬だけに絞り、同じ近接性を測り直した。Open Targets から 33 剤の標的を取得し、標的がシードと重なる薬(抗TNF・JAK阻害薬・抗IL-12/23 など 8 剤)を除外して、残る 25 剤をランクづけした。予想どおり効果量は大きく縮み、最も近い薬でも z ≈ −1.9 にとどまる。つまり結果2で見えた強い近接性の大半は「標的がシードそのもの」だったことが数字で確認できる。
それでも、純粋なネットワーク上の近さで上位に来たのは意味のある顔ぶれだった。z ≤ −1.6 で有意に近い 7 剤は、トシリズマブ/サリルマブ(IL6R)、メポリズマブ(IL5)、デュピルマブ(IL4R)、アナキンラ(IL1R1)、ベリムマブ(TNFSF13B)、アニフロルマブ(IFNAR1)で、いずれも IBD 遺伝子に直接隣接するサイトカイン経路を狙う免疫調節薬である。これらは IBD モジュールの「縁」に位置する、リポジショニング的な候補に相当する。一方、スタチン・PDE5 阻害薬・PPI・メトホルミンといった代謝・無関係薬は z > 0 に並び、モジュールから遠い。
▲ 図4. 標的がシードに含まれない既存薬だけで測った IBD モジュールへの近接性 z-score。効果量は結果2より大幅に小さく、有意に近い薬(赤, z ≤ −1.6)は IBD 遺伝子に隣接するサイトカイン経路の免疫調節薬に限られる。IL-17 阻害薬や代謝・無関係薬は有意でない。なお標的が単一の生物製剤が多く、その場合 z は構造的に大きくは負へ振れにくい点も効果量の小ささに寄与している。
とりわけ示唆的なのは、IL-17 を狙う薬(セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ)が有意な近さを示さなかった点である(z ≈ −0.6)。実際、抗 IL-17 抗体はクローン病の臨床試験で有効性を示せず、むしろ悪化例が報告されている。ネットワーク上の距離だけでは「近そうで効かない(むしろ逆効果)」を見分けられないが、少なくともこの解析は IL-17 を最優先には押し上げなかった。本記事の創薬の節で述べた「近接性は作用方向を保証しない」の実例である。
結果4:モジュールは機能的に一貫している
最後に、モジュールが生物学的にまとまっているかを確認するため、最大連結成分の 34 遺伝子を g:Profiler で機能エンリッチメント解析した(GO:BP・Reactome・KEGG、g:SCS 補正 p < 0.05)。有意なタームは 552 個に及び、上位は JAK-STAT シグナル伝達(KEGG, p ≈ 1×10⁻¹⁹)、インターロイキンシグナル(Reactome)、サイトカイン介在シグナル、Th17 細胞分化、IL-23/IL-12/IL-10/IL-4・IL-13 など個別のサイトカイン経路で占められた。KEGG の「Inflammatory bowel disease」経路そのものも有意に回収された(p ≈ 8×10⁻¹¹)。
▲ 図5. IBD モジュール(34 遺伝子)の機能エンリッチメント上位。JAK-STAT/サイトカインシグナルが一貫して上位を占める。数字は重複遺伝子数/ターム遺伝子数。
この結果には二つの意味がある。一つは、モジュールが雑多な遺伝子の寄せ集めではなく、単一の生物学的軸(サイトカイン→JAK-STAT→Th17/制御性応答)に収束していること、すなわち第2回で挙げた「生物学的に一貫した機能を示すか」という検証基準を満たすことである。もう一つは、この JAK-STAT 優位が、結果2でトファシチニブ(JAK1/2/3 阻害)が最も近い薬剤だったこととも符合する点である。ただし、シードはもともと既知の IBD 遺伝子であり、免疫・サイトカイン経路が濃縮されること自体はある程度予期される。エンリッチメントは「モジュールの一貫性の確認」と「薬剤結果の機構的な裏づけ」には役立つが、それ単独では新規な発見ではないことに注意したい。
データと方法。 ネットワークは STRING v12.0 のヒト物理相互作用(combined score ≥ 700、最大連結成分の 9,830 遺伝子)、シードは Open Targets v4 の IBD(EFO_0003767)関連遺伝子のうち association score ≥ 0.5、薬剤標的は同じく Open Targets の mechanismsOfAction、機能解釈は g:Profiler(GO:BP/Reactome/KEGG、g:SCS 補正)を用いた。連結成分の有意性評価と薬剤近接性のランダム化は、いずれも次数分布を保ったまま 1,000 回試行している。
まとめ
Disease Module は、疾患を「どの遺伝子が壊れたか」ではなく、「どの分子ネットワーク領域が乱れたか」として理解するための概念である。複雑疾患では、遺伝子・タンパク質・経路・細胞状態が互いに絡み合うため、点ではなく領域として病態を見る必要がある。疾患モジュール解析は、その領域をデータから推定し、疾患機序・候補遺伝子・疾患間関係・薬剤標的を探索するための実践的な枠組みだった。
一方で、疾患モジュールは入力データと仮定に強く依存する。インタラクトームは不完全で研究バイアスを含み、シード遺伝子は疾患の原因・結果・相関を混ぜていることが多い。ネットワーク上の近さは因果関係を意味しない。IBD の解析でも、見かけの強い薬剤近接性の大半が「標的=シード」の重なりだったことを、自分の手で確認した。
だからこそ、疾患モジュールは 「遺伝子リストを病態仮説へ変換する中間表現」 として位置づけるのがよい。統計・ネットワーク・オミクス・文献・臨床知識をつなぐ翻訳層であり、GWAS や RNA-seq の結果を、候補経路・候補細胞種・候補薬剤・検証実験へ橋渡しする。最も強い使い方は、疾患モジュールを単独で完結させず、独立データと実験で検証することである。そのとき疾患モジュールは、ばらばらのデータを一つの病態仮説へ束ねる骨格になる。
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参考文献
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Guney E, Menche J, Vidal M, Barabási AL. Network-based in silico drug efficacy screening. Nature Communications. 2016;7:10331. https://doi.org/10.1038/ncomms10331
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Gysi DM, do Valle I, Zitnik M, et al. Network medicine framework for identifying drug-repurposing opportunities for COVID-19. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2021;118:e2025581118. https://doi.org/10.1073/pnas.2025581118
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