創薬・ターゲット探索データベース

Open Targets入門 #1:概要と仕組みを理解する

創薬研究において、「どのタンパク質を狙えばよいか」を決めるターゲット選定は、プロジェクト全体の成否を左右する最重要ステップです。しかし、ゲノム・臨床・文献など膨大なデータを手作業で統合するのは現実的ではありません。

そこで登場するのが Open Targets Platform です。本記事では、Open Targetsの概要・できること・使いどころを、バイオインフォマティシャンや創薬研究者向けに解説します。

本記事はOpen Targetsシリーズの第1回です。

タイトル
第1回(本記事)Open Targetsとは?概要と使いどころ
第2回Platform UIの使い方〜疾患からターゲットを探す〜
第3回Python + GraphQL APIでデータを取得する
第4回L2Gスコアで遺伝的根拠のある未探索ターゲットを発掘する
第5回GWASシグナルをPPIネットワークに伝播させて隠れたターゲットを発掘する

Open Targetsとは

Open Targets(オープンターゲッツ)は、創薬ターゲットの同定と優先順位付けを支援するオープンソースのナレッジベースです。

EMBL-EBI、Wellcome Sanger Institute、GSK、Genentech、MSD、Pfizer、Sanofi などの製薬企業・研究機関が共同で開発・維持しており、誰でも無料で使用できます

外部リンクOpen Targets 公式サイトhttps://www.opentargets.org/

外部リンクOpen Targets Platformhttps://platform.opentargets.org/

2026年現在、本記事の基準バージョンは Platform 26.03(2026年3月リリース)です。Platformは年5回のペースで定期更新されるため、実務で利用する際は画面右下や公式ブログでリリース番号を確認してください。


Open Targetsで何ができるか

Open Targets Platformの核心は、「ターゲット(遺伝子・タンパク質)」と「疾患」の関連性を、複数のエビデンスソースを統合してスコアリングすることです。

Platformでは、1つのターゲット-疾患ペアを association(関連) として扱います。その関連を支える個々の観測・キュレーション・解析結果が evidence(エビデンス) です。エビデンスはまず個別の datasource(データソース) に由来し、さらに上位概念である datatype(データタイプ) に分類されます。

階層意味
Evidence個々の根拠。1件のGWAS credible set、1件の臨床試験、1件のキュレーションなど「あるGWAS locusが遺伝子Xを支持する」
Datasourceエビデンスの出所・処理単位GWAS associations、ClinVar、ChEMBL、Reactome
Datatype似た性質のデータソースをまとめた大分類Genetic association、Known drug、Affected pathway、Literature
Associationターゲットと疾患の組み合わせ全体TNF - rheumatoid arthritis

この階層を理解しておくと、「総合スコアが高い」だけでなく、「どの種類の証拠がその順位を押し上げているのか」を分解して読めます。

主な機能

機能内容
ターゲット→疾患あるタンパク質がどの疾患に関与しているかを一覧表示
疾患→ターゲットある疾患に関連するターゲット候補を優先順位付きでリスト化
エビデンス詳細遺伝的証拠・臨床試験・文献・パスウェイなどのソース別内訳
安全性情報ターゲットのオフターゲットリスク・毒性関連情報
薬剤情報既存薬・開発中化合物との紐付け(ChEMBL連携)
構造情報AlphaFold予測構造を含むドラッカビリティ評価
遺伝統計GWAS・eQTL情報(Platform内に統合済み)

統合されているデータソース

20以上のデータベースが自動的に統合されており、主なものは以下のとおりです。

分類主なデータソースPlatformでの主な使われ方
遺伝・ゲノムGWAS CatalogGWAS study、top hit、summary statisticsを取り込み、fine-mapping、colocalisation、L2Gによってターゲット-疾患エビデンスへ変換
遺伝・ゲノムClinVar / EVA変異と疾患・表現型の関係を、遺伝的関連エビデンスとして利用
遺伝・ゲノムGene2Phenotype、Genomics England PanelApp、ClinGen、Orphanetメンデル遺伝病・希少疾患を中心とした遺伝子-疾患キュレーション
遺伝・ゲノムGene burden解析(Genebass、AstraZeneca PheWAS Portal、REGENERONなど)rare variant collapsing解析に基づく遺伝子-表現型関連
機能ゲノミクスENCODE-rE2G、molQTL colocalisationL2Gモデルの特徴量やvariant/credible set解釈に利用
創薬・臨床ChEMBL、ClinicalTrials.gov via AACT、TTD、EMA、PMDA既存薬・開発中薬剤・臨床段階に基づくClinical Precedence / Known drug evidence
薬理ゲノミクスClinPGx薬剤応答・薬理ゲノミクス関連のエビデンス
化合物・プローブChemical Probes、Probe Minerなどターゲットに対する実験用化合物・プローブ情報
タンパク質・相互作用UniProt、STRING、IntActターゲット注釈、タンパク質機能、相互作用ネットワーク
パスウェイReactome疾患に影響を受けるパスウェイ・反応の注釈
疾患・表現型EFO、MONDO、HPOなど疾患・表現型IDの標準化、階層構造に基づくエビデンス集約

注意点として、GWAS Catalog自体がUK Biobank WGSデータを含むというより、Platform側がGWAS Catalog由来の研究情報と、UK Biobankなどを含む複数の遺伝統計リソース・解析結果を統合して解釈します。データソース名とPlatform内の二次解析結果は分けて読むのが重要です。


Open Targets Geneticsはどうなった?

以前は Open Targets Genetics というGWAS解析に特化した別ツールが存在しましたが、2025年7月9日にユーザーインターフェース(genetics.opentargets.org)が廃止されました。旧データのアーカイブはEMBL-EBI FTPで提供されます。

この変更は単なるURL変更ではありません。2025年3月のPlatform 25.03以降、Open Targets PlatformとOpen Targets Geneticsは実質的に統合され、GWAS credible set、fine-mapping、colocalisation、Locus-to-Gene(L2G)assignment、variant annotationなどがPlatform本体で扱われるようになりました。新しくOpen Targetsを学ぶ場合は、Platformを起点にすれば十分です。

特に重要なのが L2G score(Locus-to-Gene score) です。これは「あるGWAS credible setが、近傍のどの遺伝子を因果的に支持するか」を0〜1で表す機械学習スコアです。単純に最も近い遺伝子を選ぶのではなく、以下のような特徴量を組み合わせて推定します。

特徴量カテゴリ何を見るか解釈上のポイント
Distancecredible set内のvariantと遺伝子TSS・gene footprintとの距離近さは重要だが、それだけで因果遺伝子とは限らない
ColocalisationGWAS signalとeQTL/pQTL/sQTLなどのmolQTL signalの共局在疾患リスクと発現・タンパク質量変化が同じシグナルで説明できるかを見る
Variant effectVEPなどによるvariantの機能影響coding variantや機能的影響の強いvariantを評価
Enhancer-to-GeneENCODE-rE2Gなどのエンハンサー-遺伝子予測非コード領域variantの標的遺伝子推定に有用
Other / neighbourhood周辺遺伝子数やcredible setの信頼度など近傍に候補遺伝子が多いlocusでの相対比較に効く

v26.03では、L2GモデルにEnhancer-to-Gene由来の特徴量(例:e2gMean、e2gNeighbourhoodMean)が追加され、調節領域を介したvariant-to-gene解釈が強化されています。PlatformではL2G > 0.05の予測がGWAS associations evidenceとして使われ、SHAP値により特徴量カテゴリごとの寄与も確認できます。


なぜOpen Targetsを使うべきか

1. エビデンスの根拠が明確

各ターゲット-疾患スコアは「どのデータソースから、どれだけの証拠があるか」が可視化されています。ブラックボックスではなく、根拠を確認しながら意思決定できます

Association Scoreは、単純な件数カウントではありません。Open Targets Platformでは、まず各データソース内のエビデンススコアを高い順に並べ、順位に応じて重みを下げる harmonic sum(調和和) によってデータソース単位のスコアを計算します。概念的には、1位のエビデンスを強く反映し、2位以降は 1 / rank^2 で寄与を小さくして足し合わせ、0〜1に正規化します。

スコア階層計算の考え方読み方
Datasource score同じデータソース内のevidence scoreをharmonic sumで統合そのデータソースがどれだけ強く関連を支持するか
Datatype scoreデータタイプ内のdatasource scoreを、データソース重みも考慮して統合Genetic associationなど、大分類としての支持の強さ
Overall association scoreデータタイプに関係なくdatasource scoreを統合ターゲット-疾患ペア全体の総合順位付け

この方式では、同じ種類の弱いエビデンスが大量にあるだけでスコアが過度に膨らみにくく、一方で複数の独立した強いエビデンスがある関連は上位に来やすくなります。したがって、総合順位を見るだけでなく、Genetic association、Known drug、Safety、Literatureなどのdatatype別内訳を確認することが実務上重要です。

2. 遺伝的バリデーションに強い

ヒト遺伝データ(GWAS)に基づくターゲットは、臨床成功率が約2倍高いとされています(Nelson et al., 2015)。Open TargetsはGWASエビデンスを重視した設計になっており、ヒト遺伝学的に支持されたターゲットを効率的に抽出できます。

3. 製薬企業と同じデータを無料で使える

GSK・Genentech・MSD・Pfizer・Sanofiなどの製薬企業も関与するツールを、アカデミアや個人研究者も同じ形で利用できます。

4. APIとバルクデータが公開されている

GraphQL APIやParquetファイルが公開されており、大規模なプログラム的解析も可能です(後続の記事で解説予定)。


どんな場面で使えるか

創薬研究者の場合

  • 疾患XのターゲットAを探したい → 疾患ページで優先順位付きリストを確認
  • ターゲットBの安全性を評価したい → ターゲットページで既知の毒性・オフターゲット情報を確認
  • 既存薬の適応拡大を探したい → 薬剤ページから関連疾患・ターゲットを横断検索

バイオインフォマティシャンの場合

  • GWAS解析の結果から有望なターゲットを絞り込みたい
  • 複数疾患にまたがるターゲットの比較をプログラムで行いたい
  • 公開データセットのベンチマークとして使いたい

まとめ

項目内容
提供元EMBL-EBI・Wellcome Sanger Institute・GSK・Genentech・MSD・Pfizer・Sanofiなどが関与するコンソーシアム
費用無料・オープンソース
主な用途ターゲット同定・優先順位付け・エビデンス整理
データ更新定期更新(本記事の基準:v26.03)
APIGraphQL API・Parquetデータ公開あり
Genetics機能Platform本体に統合済み(Open Targets Genetics UIは2025年7月9日に廃止)

Open Targets Platformは、創薬ターゲット探索における「最初の地図」として非常に強力なツールです。次回は**Platformの実際の使い方(Web UI編)**を解説します。


参考: - Open Targets Platform - Open Targets Blog - Platform 26.03 release - Nucleic Acids Research 2025 - Open Targets Platform paper